GLOBE Lab.

グローバル化における組織・人事変革コンサルティングと資産設計のポートフォリオデザイン

昇給のニューノーマル「時間」を報酬にするという提案

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はじめに. 「ジョブ型」人事制度の落とし穴

新型コロナウイルス感染拡大を機に普及した在宅勤務(テレワーク)の定着に向けて、日系企業が人事評価制度の見直しに動き始めた。

いわゆる「メンバーシップ型」から「ジョブ型」への移行である。

※メンバーシップ型:「人」に「仕事」をつける働き方

※ジョブ型:「仕事」に「人」をつける働き方

職務記述書(ジョブディスクリプション)を定め、人事評価を明確にすることは、基本、賛成である。

「ジョブ型」人事評価を導入することで、社員一人ひとりの成果は見える化されていく。一方で、欧米企業のように成果連動の金銭報酬だけで人は動機づけされるのだろうか。

「金銭報酬」はあくまでも衛生要因。
つまり、昇給などを行ない、給与への不満を満たしたとしても、実は社員の満足感につながるわけではない。社員のモチベーション向上(動機づけ要因)に繋がる報酬制度の改革が同時に必要だ。

唯一無二の人生において、最も大切なものは「時間」である。

ここでは、「時間」を報酬にする新たなインセンティブ(昇給のニューノーマル)について考えてみる。

 

1. そもそも、毎年昇給率を上げていくことが限界な日系企業

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日系企業の平均昇給率は、3%未満が「62%」

現状維持つまり、昇給しない社員が内「27%」もいるという現実がある。

日系企業の人事制度は、平等主義という思想が根強く、評価に差がつかない。評価にメリハリがないのが特徴で、高い成果を出している社員にダイレクトに還元できていない。

コレは、2019年実施の調査結果であり、コロナショック前の結果。各国、昇給率は下振れする可能性が高く、日系企業は最早、毎年昇給率を上げていくことに限界がある。

 

2. 報酬制度マトリックス

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「金銭報酬」、「非金銭報酬」を軸に、モチベーション向上に繋がる報酬ファクターをまとめてみた。

「動機づけ要因」として挙げられるものは、仕事がもたらす達成感や成長、責任ある仕事を任されること、新しいチャレンジの機会などであり「非金銭報酬×挑戦」のカテゴリーに当てはまる。

実は、成長意欲が高い「ハイパフォーマー人材」は、「非金銭報酬×挑戦」カテゴリーがインセンティブとして最重要なのである。それであれば、自己成長や新たな挑戦のための「時間」そのものをインセンティブとして与えてみてはどうだろうか。

 

3. 昇給のニューノーマル「時間報酬」という考え方

 

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「時間報酬」を考えるにあたり、Aさん・Bさん、2名の従業員の労働生産性をシミュレーションしてみた。
生み出している価値(成果)は、BさんはAさんの「約1.67倍」である。しかし、日系企業では、上述の通り、1.67倍も給与差を生み出すのは難しいであろう。

そこで新たに提案したいのが「時間」を報酬として与えるという考え方である。

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上記のAさんとBさんの対比では、Bさんは「週16時間(2日分)」Aさんよりも同じ成果に対して時間を削減できたことになる。それであれば、「16時間(2日分)」を自由に使って良いと「時間報酬」としてインセンティブを与えるという考え方だ。

副業するにしても、オウンビジネスをするにしても、旅行にいくにしても使い方は自由。常に、同様の高い生産性を出せるのであれば、「週16時間(2日分)を減算し、週3日勤務」にしても良いと思う。

※削減できた時間は、もちろん賃金の保証された時間(有償時間)とする。

大幅に昇給させることが難しい時代において、「時間」を報酬にするという提案だ。

最近のミレニアル世代(20代〜30代前半)にとっては、この方が動機づけされるように思える。実際に、弊社社員のハイパフォーマー人材に、一定期間「週16時間(2日分)減算し、週3日ワーク」にしたら、モチベーション向上に繋がった。(しかも、出してくる成果は変わらず高い!)経営者側の視点では、昇給率(昇給額)を上げずに「時間」で還元することで、人件費をマネジメントできるメリットもある。

 

「1日8時間・1週40時間働くことが原理原則」というのは、法定労働時間を超えることが問題で、求められる成果を出せるのであれば、1日8時間も働く必要がないのではないか。

生み出す成果に意識を向けると共に、限られた人生における「時間」をもっと自由に有効活用できる「時間報酬」という新たなインセンティブを提案し、日本人の労働生産性とエンゲージメント向上に貢献していく。